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本当にいい女だった…匂いしか嗅いでないけど



肌触りの良い風が頬を撫で、キンモクセイの香りがふと鼻をくすぐる。

紅色に染まる山の木々を見ながら梅割りをきゅっとやると、

出来もしないのに一句詠めそうな、そんな気にさせてくれる秋。

私はこの時期になると、必ずある女性の事を思い出す。



奈央は、私が高校時代にずっと思いを寄せていた女性の事だ。

透き通るような白い肌、思わず触りたくなるような艶やかな黒髪。

なんとも非の打ち所のない清楚な女性だった。

出会いは通学バスの中。

吊り革につかまりながら友達と楽しそうに話すを奈央を見た瞬間、

私の体の真ん中に電撃が走ったのだ。ずっきゅーん。まさに一目ぼれだった。



それからというもの私は毎朝バスの中で奈央を目で追った。

ひたすら目で追った。

今日は髪をたばねててちょっと色っぽいなとか、

うなじのあたりをペロペロしたいなとか、

くつ下の長さが左右でずれてるけど今日は朝急いでいたのかなとか。

凄まじく観察した。

晴れの日も、雨の日も、私の頭の中は奈央で一杯だった。

好きだ。嗚呼…好きだ。奈央。俺、ラブってる。俺、おまえに超ラブってる。

いてもたってもいられなかった。



自分の気持ちを抑えられなくなった私はその気持ちを手紙にしたためた。

日本海の荒波のように熱く、それでいてどこか切ない、

そんなパッションを手紙に書きぶつけた。

そして私はその「ラブレター」を奈央に渡した。



手紙を渡してから1週間がたった放課後。

下駄箱を開けると、靴の上に一通の封筒が置いてあった。

かわいらしいクマの絵がプリントされている封筒。

それが奈央からの返事だという事はすぐにわかった。

私は下駄箱から封筒を取り出すと外に飛び出し校舎の隅に身を潜めた。

周囲を見渡し、誰もいない事を確認して、ゆっくり封筒を開けた。

鼓動が早くなり、色々な想いが頭を駆け巡った。

やぶれないようそっと封を開ける。

すると、中に一通の手紙が入っていた。

私は鼻息荒く手紙を広げてみた。




+++++++++


突然こんな手紙を出してごめん。

驚いているよね。

もしかしたら、というか多分俺の事知らないんじゃないかと

思うんだけど、Cクラスの●●って言います。

バスで奈央さんの事を見かけるようになってから

ずっと気になっていました。

直接会って伝えたかったんだけど、奈央さんの事が好きです。

本当に大好きです。

もし良かったら付き合って下さい。


++++++++




封を開けるとなぜかそこには私が奈央に出したラブレターが入っていた。

封筒をひっくり返し、中を良く確認してみたが私の手元にあったのは、

自分が奈央に宛てたラブレターだけだった。

いや、ちょっと待て。

本来ラブレターの返事というのは、

「好き」という気持ちに対する答えが書いてあるものではないのか。

「でも私はあなたの事が嫌いなの」とか

「実は私もあなたの事が好きだったの付き合おう」とか、

そういう気持ち的な事があるのではないか。



私は奈央にラブレターを書きそれを渡した。

それは間違いない。

しかし私が持っているのは奈央からお返事レターではなく

私が書いたラブレター。わからない。

なんで返事じゃなく自分が書いたラブレターがあるの。

私は混乱した。



その後、色々思いを巡らせ多角的に分析し推測を立てたのだが、

どうやら私はふられたらしい、という結論に達した。

奈央が私の事をどう思っているのかは未だにわからない。

しかし、ラブレターごと返却してきたという事はつまり、

気持ち悪いもん書いてんじゃねーよ。

こんな手紙いらねーしゴミ箱に捨てるのもうぜーから

そのまま返してやるよ。この養豚が。

という事なんだろう。



不思議と涙は出なかった。

むしろふられたという現実を冷静に受け止めていたのかもしれない。

私は自分の書いたラブレターをクマがプリントされた封筒に入れ直し、

しばらく下の方をぼんやり眺めていた。

そして奈央の事を想像しながらその封筒の匂いを思いっきり嗅いだ。

ただそれだけの話。

(終)
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●トナリグミ  ●Author→組長

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