ある夏の日。

私は、ある自販機の前に立っていた。

いや、正確には立ち尽くしてしまっていた。

それはお金がなかったからという訳ではなく、

飲物の選択肢が1つしかなかったからである。

ディスプレイが破壊されており見本の飲み物が抜き取られているのだ。

一つの飲み物以外何が出てくるのかわからない状態だった。

加えて言えばホットが出てくる可能性もある。



唯一の見本である飲み物はアイスココアだった。

渇いた喉を潤すのには、すこし甘すぎる飲み物である。

私はこのアイスココアというヒントから他の4つの飲み物を推測してみる事にした。

まず、確実にわかっている事は向かって一番右がココアであるという事。

そしてココアから左の4商品は何かわからないという事だ。

かなり強引ではあるが、そこから想像できる事は

同じ商品の並列配置である。

言い換えればココアの左も並んでココアと言う事だ。

「?」-「?」-「?」-「ココア」-「ココア」みたいな感じ。

しかしどうだろう。

一般的には同じ商品を2つ並べるのは人気がある飲み物ではないだろうか。

巷でココアが大人気!!とか聞いた事がない。

コーラならまだしもココアが2つ並ぶ可能性は薄いんじゃないだろうか。

とするとココアの左横にはココア以外の何かが来る事になる。

コーヒーなんかはどうだろうか。

ココアと兄弟飲料という位置づけで配置できる気がする。

いや、それも待てよ。

5つしか配置できないのに、そのうちの2つを甘い飲み物にしてしまったら

バランス的に偏ってしまわないか。

自販機の40%が乳飲料という配置はありえるのか。



田んぼの真ん中に位置する自販機を前に一人。

はたから見ると、自販機に話しかける新手の変態かと思われていたかもしれない。

じりじりと日差しが私を照りつけ、喉の渇きをより一層刺激する。

しばらく経ったであろうか。

私は色々考えた末に色々考える事自体が無意味だと悟り、

自分の直感を信じる事にした。

そこで私が出した答えは自販機に向かって一番左のボタンだ。



私は自分の心が揺らがないよう、すぐさまお金を挿入しボタンを押した。

すると自販機はぶっきらぼうに缶を吐きだした。

出たぞ。色々あったがついに飲物が出た。

自販機から出てきた飲物は一体何なのか。

さぁ姿を見せるがいい。



私の喉は、この時点で完全に渇ききっていた。

舌が上あごにくっついて取れないくらい渇ききっていた。

もしこの状態で取り出した飲み物が温かいおしるこだったら、

私は発狂してしまうかもしれない。

自販機を0択にしてしまうかもしれない。

私は意を決し取出口に手を伸ばした。



すると、取り出し口から金属音が聞こえてきた。

おつりか。

ふとボタンを見上げると商品の金額表示はない。

もしかしたら飲物が安かったのかもしれない。

たまに100円の自販機とか見かけるし、中には90円なんていう強烈な自販機もあるからな。

私は探るように返却口に手を入れてみた。

するとそこには10円玉が14枚あった。



なんだと。

おつりが140円。私は自分の目を疑った。

もう一度数えなおしたが、やはり10円が14枚あった。

私は120円を入れた。それは間違いない。

通常単価ならおつりは無いはずだ。

もし仮に商品が100円だったとしてもおつりは20円、

多くても30円が限界だ。

一体どういう事なのか。

私はその後、様々なシチュエーションでこのおつりを考察してみた。



しかし、どうしても計算があわなかった。

当たり前だ。百歩譲って商品が激安だったとしても、

挿入金額より返却金額が多いなんてありえない。

マイナス20円の飲物なんてあるはずがないし、あってはならない。

だとすれば私の手元にある140円は何なのか。

私は思った。

これは罠なんじゃないかと。



どこかの影に赤いヘルメットかぶったおじさんが潜んでいて、

私が140円をねこばばした瞬間にわーって現れる。

とかそんな昔見た懐かしい展開になるんじゃねーかと。

しかし、一般民の私にそんなテレビ的な展開が起こるわけもなく、

取出したおつりを片手にただ時間だけが過ぎていった。

しばらく考えた結果、私は出てきたおつりのうち増加した20円と取り出した缶を、

自販機の横に置きその場をあとにした。

後悔はしていない、

取り出した缶が「粒いっぱいコーンポタージュ」だった事を除いては。


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●トナリグミ  ●Author→組長

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