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私は、お昼にお弁当を買って食べる事が多い。

そのほとんどがコンビニ弁当なのだが、そことは別に

週に一回必ず利用している「お弁当屋さん」がある。

かれこれ1年くらい通っている。

そのお弁当屋さんは、チェーン店でもなければ行列ができるような人気店でもない。

逆にちょっと小汚い感じすらある個人経営のお店である。





私はそのお弁当屋さんで必ず「から揚げ弁当」を頼んでいる。

から揚げは、ジューシーな鶏肉にカリカリでサクサクのころも。

その脇にはポテトサラダにスライストマトなどが添えてある。

至ってノーマルなカラ揚げ弁当ではあるが、味を知っている私は、

この記事を書いているだけでよだれがジュルリとなってしまう。

本当においしいお弁当なのである。




このお弁当屋さんは、主に2人できりもりしている。

一人は全ての弁当を作っている店長さん。

そしてもう一人は、レジ係の金さん、

この話の主役である。




「いらしゃいませ!」

中国出身の金さんは、私が店内に入るとちょっと違和感のあるイントネーションで挨拶してくれる。

そして、お客が私だとわかると「はい。からあげ弁当いっちょうね」と、

何も言わなくてもから揚げ弁当を準備してくれるのだ。

注文が非常に楽だ。「はい」と言うだけで良い。

1年間ずっと同じ弁当を注文し続けた結果、私が何を頼むか覚えてくれたのだ。




金 「きょうもあついねぇ!」

私 「そうですね。何か30度超えるみたいですよ。」

金 「まぁわたしみせいるからすじゅしい(涼しい)けどね!」

二人「ははは」




独特なイントネーションはあるものの日本語はほぼ完璧に近い金さん。

ただ会計を済ませるだけでなく、こんな冗談まで私にサービスしてくれる。

毎回ではないが、こんな感じで話しかけてくれるのも客として嬉しいものだ。

そして会計が済むと決まって

「ありがとうございました!おしごとがんばってください!」

と、言ってくれるのだ。

愛想と言ってしまえばそれまでだが、マニュアルなどありそうもないこの店で

ここまでは客に気遣える店員がいるだろうか。

私がこのお店を気に入っているのは、から揚げ弁当がおいしいからという理由だけではないのである。




ある日の事。

いつものように弁当を買いにきた私。すると、金さんの様子がいつもと違っていた。

「いらしゃいませ」のテンションが低い。

なんだろう、いつもの突き抜ける明るさがない気がする。

なんかあったのだろうか、非常に気になったのだが、

何となくプライベートな話のような気がして特に話しかけたりする事はしなかった。




次の週。

私がお店に入ると金さんの明るく元気な声が店内に響いた。

私は先週の事が頭の片隅にあったので何となくほっとした気持ちになった。

先週は調子が悪かったかなんかだったんだろう、

そんな事を思いながら店の奥にあるお茶を取りレジに向かった。

しかし、金さんは弁当をつめている間、不意にこんな話を切り出してきた。




「わたしちゅごくにかえるようになったんです。」




あまりに突然の話だった。

私はこの突飛な展開に一瞬混乱した。先週テンションが低かったのはこのせいだったのか。

金さんに話を聞くと中国に帰るのは本当らしかった。

ただ中国に帰る理由についてははっきりとは教えてもらえなかった。

言いづらい事だというのは察しがついた。





「寂しくなりますね。」私がそう言うと、

金さんは何ともいえない表情で「へへ」と笑った。

そして、私は金さんからお弁当を受け取ったあと

「ありがとう」とだけ言い残し店をあとにした。

店を出た後、ちょっと気になり後ろを振り向くと、金さんと目が合った。

私は笑いながら会釈した。

それを見た金さんは笑いながら少し大きめにお辞儀をしてくれた。




これが金さんと私との最後である。

今考えるとちょっと素っ気無かったかなぁと思う。

至極平静を装っていた私であったが、内心はすごく寂しかったし

もっと色々話たい事もたくさんあった。

「また会えるといいですね」くらいは最低でも金さんに伝えておきたかった。

でもそれができなかった。

私は「あくまで客と弁当屋」みたいに境界線を引いてしまっていたのだ。

人間が小さい男である。

金さんに伝えられなかった事が非常に心残りだが、

また会えたらいいなぁ、と心から思っている。




金さんが中国に帰国してから、3ヶ月が経った。

金さんは今何をやっているのだろうか。

中国でも弁当屋をやっていたりするのだろうか。

もしそうならこれほど嬉しい事はない。

仮に違う仕事をしているにしても、金さんの人柄なら大丈夫。

きっとうまくやっているに違いない。




「いらしゃいませ!からあげ弁当いっちょうね!」




彼がいなくなってからも、このお店に入る度に

金さんの元気で明るい声が聞こえてくるような、そんな気がしてならない。



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●トナリグミ  ●Author→組長

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