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車のバッテリーがあがった。

という事は、言わずもがな車は動かない。

車が動かないという事は、その後の打合せに間に合わないという事であり、

その打合せに間に合わないという事は、

その後の予定が全て狂うという事でもある。



つまりは、私の頭を含めて、何もかもがパーになるという事に他ならない。

バッテリーがあがったのは、おそらく私が1時間近く扉を開けっ放しにしてしまった為だろう。

私はホテルにもどり受付の女性(おばちゃん)に助けを求めた。



「あの、すいません。車のバッテリーがあがってしまいまして、ちょっとお車をお借りしたいのですが・・・」

「私バイクなんですよね。それでも大丈夫かしら…」


バイク?

いけるのか?12Vあればいけるのか?というか、

バイクで車のバッテリー復旧なんて聞いた事ねぇぞ。

なにより、何となく、ホントに何となくなんだが、

エンジンから煙が出そうな気がしてならない。

時間的に余裕があれば、やってみる価値はありそうだが今は一刻を争う。

とりあえずは却下だ。



次いで、着いて早々に出て行ってしまったオーナーのポルシェを思い出し、

おばちゃんに聞いたのだが、残念ながら今日は戻ってこないとの事だった。



その後、会社の同僚、先輩、上司、経理にまで電話した。

事の顛末を説明し大至急助けに来てくれないかと、嘆願した。

しかし、結果は全てノーだった。

同僚に関して言えば、「そんな事より、手伝いに来てくれないか」と言われてしまった。

最終手段として事後のお客さんにお願いする、という禁断の一手まで考えたが、それは本末転倒。

そんな事をしたら会社の信頼はガタ落ち、私の首すら飛びかねない。

ぬってりした汗が、背中をなぞるように落ちる。



次の打合せまであと40分。

車でも移動に30分弱はかかる距離だ。

ついさっきまで、丸見えガラスで遊んでいた私はどこへやら、

己の心がガラスのように透けてしまっていた。

車止めに腰掛け頭を抱え込む私。


ん?ちょっと待てよ…

最後に一つだけやって無い事があるじゃないか。

めちゃめちゃ言いづらいが、やらないよりはましだ。

そう、思った私は行動に出た。



そして、10分後…

ラブホテルの入口にあるビニル製の暖簾を掻き分け疾風の如く現れたのは一台の軽自動車だった。

「ブースターは?」

そう言うと、私からブースターを受取り手際よくかつ迅速に復旧作業に取りかかった。

いつも私の世話をやき、事ある毎に私のピンチを救ってくれた人物。

それは私の母だった。

最近めっきり老け込んでしまったが、未だ現役バリバリ歯科衛生助手である我が母親。

息子のピンチと知るや、全ての仕事を投げ打って吹っ飛んで来てくれたのである。

「じゃあエンジンかけるから、車に乗って」

想像して頂きたい。

ラブホテルの駐車場に母(56)と子(30)が二人。

何を話すでもなく、ただ黙々とバッテリーの復旧作業をするという、この構図。

これほどシュールな場面があっただろうか。

きっと、いやだったに違いない。

息子が待つラブホテルになんて行きたくなかったはずだ。

しかし、お母さんは来てくれた。

一人息子の為に。

「運転気をつけなさいよ」

そう言い残すと、母の乗った車は土ぼこりをあげながら帰っていった。

私は、この時ほど彼女を頼もしく思った事はない。

文句も言わず、ただ黙々と作業をする母の後姿を、私は一生忘れないだろう。

なんだこの話。

(終)

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●トナリグミ  ●Author→組長

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